心象風景
夜のバスは仄暗く、物悲しい。水中のような空気の密度。 夜のバスはほんとうは生き物。わたしを体内に入れてどこか遠くへ運ぶといい。 暗い草原を抜け荒れ果てた地へ。物言う生命のいない場所へ。 夜のバスはコウコウと鳴く。コウコウ、コウコウ。高い鳴き声…
神様を見た。昔、神様を見た。神様はピンクの色あせたバラだった。 神様を見てしまったのでわたしはこの世界から逃げられなくなってしまった。それがひどく残念。
おいでおいで戻ったよと声かければ小鬼たちは地面からずるりずるりと這い出して来るのだ。一人二人と懸命に出てきてはわたしの足や肩や背中にひたりと張りつき愛しそうに頬ずりをする小鬼たち。魚みたいな瞳でにっこりと笑う。
小鬼たちはおかえりとわたしを優しく迎えてくれる。小鬼たちはわたしの血肉が好物。あたたかい闇の感触。
いつからここにいたのか分からないけれど、気が付くとここにいる。2,3センチほどの生ぬるい液体に身を横たえてただただずっと空を見る。空は闇。ただの闇。そこは暗くて無限に広い。遠くに1つだけ星のような明かり。それを見る。じっと見る。そうして疲れ…
生まれ変わるなら山椒魚が良いなと考える。 巻き上がる砂粒を数えながら過ごしたい。嵐の日は川底から荒れる水面を眺めたい。 水の温度とやわらかい土の感覚。それだけを感じる。 目を閉じて、ゆっくりと動く。
地面が割れて小鬼たちが踊り出す。切り取られた乳首零れ落ちる内臓。よろしければ目玉をどうぞ。
足元にはいつもぽっかりと空いた穴がある。暗くて深い穴がある。ともするとそこから子鬼たちがやってきてわたしの周りを踊りだす。たのしそうに踊りだす。
暗闇の中、川沿いの草を蹴りながら歩く。対岸の花火。遠くに微かなランタンの明かり。点いたと思えばすぐに消える。向こう岸への橋はなく。疲れたら穴を掘る。穴を掘って眠る。
彼らがあなたの苦悩をなきものとするのならわたしがその下へ降りてゆきましょう別に何もしないけれどただあなたと共にいましょう。暗闇はこわい?地下室はこわい?大丈夫息をひそめてほらここでの生き方を教えてあげる。